ふたつのことを思い出す。一つ目は、OSXに乗り換えた時の強い違和感だ。様々な操作性の違いは大きかったが、OSXは全体として従来のMacOSの雰囲気を残した。しかしながら、ファインダの表示フォントサイズが大きくなったのに困惑した。長ったらしいファイル名が許されるようになったこともあり、デスクトップに散らばったアイコンに添えられるファイル名がやたらとスペースを占める。大きくする意味が何かあるのだろうかと訝った。OSX本来の作法は、ファイルの置き場を指定して、デスクトップに散らさない。表示フォントのサイズはファインダの「表示オプション」10-16ptの間で選べる。フォントサイズに関する縛りはもう一カ所。システム環境設定の「アピアランス」の最後に、滑らかな文字に関する項目がある。

滑らかな文字とは、システムが表示する文字をアンチエイリアシング処理、要するにフォントの縁をぼかすように画像処理してギザギザが目立たなくすることである。処理の強さはデフォルトで自動(主ディスプレィに最適)となっている。なんと、ここでもモニタの種類が環境設定に影響しており、主ディスプレイの種類を判断してアンチエイリアスの強度を変化させている。フォントサイズの指定は、細かいサイズのフォントにアンチエイリアスを効かせると却って読み辛くなるので、それを防ぐためだ。

OSXに慣れるということは、アンチエイリアス処理による表示に慣れると言うことに他ならない。

アンチエイリアス処理はフォントサイズが大きいほど良く効く。従って、OSXに慣れると小さな文字を視るのが面倒になって来る。例えば、ウインドウズを使っている時に出てくる様々なアラートのフォントは私には細かすぎる。大切なアラートと思うから、目を凝らして読むが、細かいゆえに冗長で読む気が失せる。これはセキュリティ上も問題があるだろう。おそらくMacOSXは大きな文字でアラートをすっきり収めるために、無駄な表現を極力省く努力をしていると思う。

思い出すもう一つは、何かの都合で久しぶりにクラシックOSを立ち上げて、インストーラーを起動した時のことだ。クラシックOSの細かいシステムフォントンに戸惑った。やはり、私はモニタの前で目を凝らさなくてはならなかった。ひとたびアンチエイリアス処理に慣れると、後戻りは大変難しい。アンチエイリアスの効かない文字が馬鹿みたいに見える。

一方で、レイアウト至上主義の事務作業では、エクセルが「枠にぴったり収めるツール」として有能な事務員さんたちに重宝されている。事務エクセル書類ではセルに内容を全部詰め込むことが重視され、あらゆるテキストがセルの幅に収まるように(多分エクセルが自動的にやってくれるんだと思うが)6pt極小フォントが頻用される現実がある。

前振りが長かった。本題はここからである。

私がここでふたつの事実を指摘した。

  1. 日本の事務仕事をこなすには、極小フォントが必須であり、極小フォントはアンチエイリアスと相性が悪い。
  2. アンチエイリアス画面には慣れが必要である。しかし、一旦それに慣れるとギザギザには戻れない。

先日来、MacOSXとウインドウズビスタの混在環境で両方のOSを同時に立ち上げて使い始めた。ビスタで使うのは、主にワードとエクセルだ。MacBookProの画面に現れた最新のウインドウズとオフィスはチンケなギザギザ画面だった。ウインドウズユーザーの皆さんは最新のビスタでギザギザな表示を苦情も言わずに使っていることに驚いた。私はがっかりしたが、仕方がないと諦めて使っていた。最新のエクスプローラー7もしょぼいギザギザフォントだ。ウインドウズを使う人から、私のウエブページはこんな風に見えていると思い、ちょっとがっかりする。ウインドウズ版のサファリを試してみようと思い、インストールしてびっくり。アンチエイリアスが効いている。どういう仕組みか分からないが、ウインドウズ版のサファリの表示はきれいだ。サファリのEdit> Preferences> Appearanceの中に、"Font smoothing:"というプルダウンメニューがあり、アンチエイリアス効果の強さを選べる。

そんなときに、メイリオフォントの話を聞いた。IEでもメイリオフォントを指定するとアンチエイリアス効果が得られるという。やっぱ、あるじゃん。ツール>全般>デザインにある「フォント」ボタンをクリックするとフォントの選択ウインドウが出るので、「Webページフォント」にメイリオを指定する。

スクリーンショットを4つ示した。左から順に

Safari for windows(ver.3.0.4):
smoothingはmedium。その他の設定はデフォルト。
FireFox (2.0.0.11)
初期設定はそのまま。指定フォントはMS-Pゴシック。ウインドウズデフォルトのギザギザフォント(メイリオを指定することも出来る)
InternetExplorer7
メイリオフォント指定。他はデフォルト。
Camino (1.5.3) MacOSX 10.5.1
Mac専用のウエブブラウザ。マック版ファイアフォックスも表示そのものは大体同じ。マック用ブラウザとしてはマイナーな部類だが、私は仕事用に使っている。
フォント表示の比較

メイリオはClearTypeという技術を使った横方向のみのアンチエイリアスとのこと。確かにアンチエイリアスが効いて見える。色が滲んで調子の悪いCRTモニタをみているような不快感を感じるが、これは慣れが解決してくれると思う。メイリオフォントはファイアフォックスでも使える。ワードやエクセルなどに指定すると、少なくとも文書の表示はアンチエイリアスが効いているように見える。今までのMS-Pゴシックのギザギザよりは増しであるけれども、実用性はどうだろう?

少なくとも、メイリオはウインドウズビスタのデフォルトフォントになっていない。私はビスタを使い始めて、この話題をウエブで見かけるまで、メイリオフォントの存在に気付いていなかった。マイクロソフトは意図的に初心者をメイリオから遠ざけようとしているように感じられる。なにしろ、こいつは互換性が低い。メイリオフォントは横幅が大きいから、既にあるワード文書のフォントを単純にメイリオに置き換えると、とんでもないことになる。印刷には向かないのだ。ウエブページではリキッドレイアウトを意識して文書を作ってあるなら問題はなく、美しい表示の利点を生かせるが、テーブルレイアウトや<br>で改行位置を指定するようなページでは、レイアウトがグチャグチャになると思う。

ウインドウズではメイリオのみがClearTypeに対応しているようだが、OSXではワードだろうがエクセルだろうが、ヒラギノ以外の例えばMS-Pゴシックであっても、問題なくアンチエイリアスが効いている。利用者はアンチエイリアス表示の独特な雰囲気に慣れるだけでよい。マイクロソフトがClearTypeをわざと互換性を落とすような形で実装した理由が良くわからない。多くのユーザーがアンチエイリアスの利点に気がつくと、その面で先を行くMacOSXの優位性を証明することになり不都合と考えたのかも知れない。そういう意味では、AppleがSafari for windowsでアンチエイリアス表示を実現したことで、ウインドウズユーザーに対するMacOSXの宣伝になるだろう。

まぁ、メイリオフォントが好ましいと思ったら、Safari for windowsを使ってみることを強くお勧めする。そんでもって、アンチエイリアスが効いた表示が良いなぁと思ったら、次はMacを選んだら良いんじゃないでしょうか。ウインドウズのインストールも出来るしね。

分類
Mac・Windows
URL
http://www.oyakonews.com/oyanews/homep/HP2007/HP071230.html