生まれ故郷が、ドラマや小説の舞台になる、というのはちょっと特別な気分になります。 

ピンクの表紙、黄色い帯

友人の本

パルプ工場と廃液の川

この橋を渡ると、故郷の町

トウサンの生まれた街は、三浦綾子さんの小説の舞台になっています。村上春樹さんの、「ノルウェイの森」の中でも、ストーリーの最後の方に、突然名前が出てきて、「あそこはなんだか作りそこねた落とし穴みたいなところじゃない?」 などと、云われていました。何故に突然、そこに名前が出てきたのか、よく分かりません。紹介の仕方はともかく、悪い気はしません。寒いことでは相当有名なところ。明治時代の低温日本記録は未だに破られていません。

トウサンの古い友人が、作家となってデビューしたのです。彼の作品の舞台が、トウサンの生まれ故郷、なかでも、生まれてから高校を出るまで住んでいた、まさしく生活していた場所なのです。

その街は、私が住んでいる頃は何も違和感をもっていなかったのですが、カタカナの町名で、いつも、製紙工場独特の強烈な臭いに包まれたところでした。余所から来た人にとって、恐らくとても奇異に感じるであろう、不思議な町名と悪臭を、私は、物心付いたときから当然のものとして受け止め、その中に馴染んで成長していったのです。

中学で、工場の煙が臭いといった教師に、ムキになって反論したことをおぼえています。故郷を離れて、ずいぶん経ち、その様子もかなり変わりました。技術は進歩し、社会が豊かになり、パルプ工場の臭いも、泡だらけの茶色い廃液の川も、今では随分と「改善」されました。私たちの生活の場であった、寸分狂わずに整列していた社宅も、今ではほとんど取り壊されてしまったようです。

いつか、煙突から煙が出ない時代が来るのかも知れません。あのころの様子を、書き残してくれた友人に、感謝の気持ち。こども達は今でも、たんかす山で遊んでいるのかしら。それより、たんかす山なんて、今でもあるのだろうか。

書店で見かけたら、お手に取ってみて下さい。
空を見上げる古い歌を口ずさむ (小路幸也著、講談社、第29回メフィスト賞受賞作 ISBN4-06-211842-4)


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